2006年05月28日

或る告白

 そうさ、全部僕がやったことだよ!
 気が付かなかったのかい? 僕が、あの小生意気な下級生を絞め殺したのも、うるさい教師を階段から突き落としたのも、忌々しい部屋に火を付けて、一気に殺してやったのも、全て?
 はっ、君はどこまでお人好しだというんだ?
 僕は今まで君のような人間を見たことがないよ。
 ああ、言ってしまえば、僕は君だって殺そうと思ってたんだよ。
 その、何もかも見通したような、その実、何も分かってないような、曖昧な表情が気に入らなくてね。
 さぁ、どういう殺され方が良い?
 刺し殺されたい?
 それとも、また首を絞めてやろうか?
 屋上から落とすというのも良いかもな。
 まぁ、そのあたりは君の好きにしてやるよ。
 なに? 殺される前に、僕がどうしてみんなを殺しているのか知りたい?
 いいよ、別に聞かれて困ることでもないしね。
 僕はね、殺したいんだよ。
 みんな殺してやりたいんだよ。
 締めて、
 刺して、
 刻んで、
 落として、
 ありとあらゆる手段で、
 全身全霊を持って殺してやりたいんだよ。
 いや、そうしたいというよりも、そうしなければいけないと思うんだよ。
 え、狂ってる?
 あははははは。
 ねぇ、狂ってるってどういうことなんだろうね?
 正常じゃない判断?
 その正常は誰が決めるんだい?
 君? それとも神様?
 いや、もうどうだっていいんだよ。
 僕は、みんな殺して殺して殺して、最後にはちゃんと僕も殺して終わらせるんだ。
 だから、その邪魔をしようという君を殺す。
 分かった?
 それじゃあ、どうやって殺されるか決めた?
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2006年05月25日

温度

 この街に帰ってきたことに、それほどの理由などなかった。ただ、出張で近くまで来たので、学生時代を過ごした街を見たくなっただけだ。
 駅前はすっかり変わっていて、一瞬違う街に来てしまったのかと思った。三十分ほど歩き、大学へと向かう。初夏を迎え、萌ゆる緑。確かに景色は変わってしまったが、街の空気は変わっていなかった。
 大学の近く、通い詰めた喫茶店にはいる。覚えているのよりも白髪の増えたマスターが、変わらぬジャズの音で迎えてくれた。
 そして、変わらぬコーヒーを飲みながら、一緒に通った彼女のことを思いだしていた。
 初めての、熱いキスと、
 最後の、冷めたキスを。
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2006年04月20日

君の瞳の中のうさぎ

 僕は、彼女の目が好きだった。
 大きくて、くりっとかわいらしくて。
 水晶のようにとうめいで、清流のようにつややかで。
 そんな彼女に見つめられているときが、幸せだった。
 汚れてしまった僕でも、彼女のきれいな瞳の中では輝いて映っていた。
 きれいなものを、汚したくないと思っていた。
 いつまでも、あえかな彼女のままでいてほしいと思っていた。
 だけど、僕はやっぱりクズで、
 彼女もやっぱり普通の女の子で。
 二人の関係なんて、ガラスのようにもろかった。
 あの日、ふるえる彼女の背中を抱くことができなかった僕を観ていたのは、
 まっ赤に泣きはらした、彼女のうさぎのような瞳だった。

 "Glass eyes on the EDGE" is over.
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2006年02月05日

喫茶店の文章家

 最近では、普通の喫茶店というものはすっかり影をひそめてしまい、クラスメイトは代わりにセルフサービス式のコーヒーショップで話に興じていた。私は、彼女たちに会うのが嫌だったので、いつも駅から少し離れた路地にある、二十年前のテレビドラマにでてきても違和感がないような喫茶店で一人放課後を過ごしていた。

 店内には薄くジャズが流れていて、それを聴いているのは、私のほかに喫茶店のマスターと、奥の席で難しそうなハードカバーを読んでいる大学生風の青年だけ。
 いつもの席に座り、いつものようにコーヒーを口にしながら、iBookの電源を入れる。インストールされているOSもXではなく9で、現行モデルのようにシンプルなラインで構成された白い筐体ではなく、デザイナーの遊び心だけで構成されたような、貝殻にも似た独特の外見が私は好きだった。
 やがて、ゆっくりとOSが立ち上がる。タッチパッドに指を滑らせてアイコンにポインタを重ねる。右手の親指で、軽くダブルクリック。テキストエディタが起動する。そして、気ままにキーボードを叩く。
 文章を作るのは気持ちが良い。
 それほど気の合わない友人と、次の日には忘れてしまうような会話を交わしたり、カラオケでだらだらと歌ったり、そういうことをするよりも、全然気持ち良い。
 もちろん、次にどのような文字を綴るのかに頭を悩ますこともあるが、その苦しみですら快楽に感じてしまう。
 ハイハットにあわせてキーを叩き、ブレイクのところで、エンター。
 フォービートにあわせてリズミカルに。
 鬩ぎあうようなピアノとベースの合間を、私の打鍵が駆け抜ける。
 滑らかに流れるサックスの裏でメロディ。

 小一時間、そうしてキーボードを打ちつづけて、iBookのモニタにはひとつの文章ができていた。
「できたのかい?」
 声に顔を上げると、先ほどまで分厚い本を読んでいたはずの青年がそこにいた。
「あっ――ええと……」
 突然話し掛けられて、まともな返事ができない。いや、もともと誰かと話をするのは得意じゃない。
「ちょっと、読ませてもらっていいかな?」
 彼はそう言って、私の斜向かいの席に座る。
「は、はい。どうぞ――」
 iBookをくるりと回して、彼のほうに向ける。
「それじゃあ――」
 パチパチと、カーソルキーを叩く音が響く。彼は、先ほどまで本を読んでいたのと変わらぬ表情で私の文章を読んでいる。私は、自分が書いたものを目の前で読まれているというのがどうにも恥ずかしくて、冷めていくコーヒーをじっと見つめるしかできなかった。
「――ありがとう」
 短い時間で書いた文章の量なんてたかが知れている。私が恥ずかしい思いで俯いていたのも、それほど長い間じゃなかった。
「あの……どうでした?」
 恐る恐る尋ねてみる。答えを聞くのは怖いけど、このまま何も聞かないというのはもっと怖いような気がしたから。
「そうだね……いつも、こういうのを書いていたの?」
「いつもって言うわけじゃないですけど、大体同じような感じで……」
「ふうん。もっと早く読ませてもらっていれば良かったかな」
 その後、彼は私の文章について、とても長い感想を述べてくれた。たったあれだけの時間で書いた文章がもらうには勿体くらいの感想を。彼の使う言葉は、私にはちょっと難しいものもあって、すべてを理解できなかったけれど、自分の書いたものが、こうやって誰かから言葉をもらえて、とても嬉しかった。

「悪かったね、突然読ませてくれなんて言って」
 彼は今更になってそんなことを言い、少しはにかんだ表情を見せた。
「こちらこそ、わざわざ感想までいただいちゃって」
 そんな表情を見て、なぜか私のほうが恥ずかしくなる。
「いや、実は前からどんなのを書いてるのかなぁ、と気になってはいたんだけどね。なかなかきっかけって言うか、なんと言うか、話し掛けちゃって良いのかなぁって思ったりね」
「私も、今日は突然でちょっとびっくりしちゃいました。でも、読んでもらえてとても良かったです」
 お礼に、私ができる最高の微笑を返す。
 ほんの少し顔を赤くして、視線をはずして、ぽそりと何かを呟く彼を見て、私はちょっとしたいたずらをしてみる。
「あ、もしかしたら、かわいいとかって思いました?」
 軽く上目遣いで彼の目を覗き込む。
 でも、言葉とは裏腹で心臓は早鐘を鳴らし続けている。店内のジャズはクールなフォービートなのに、私のハートは狂ったようなエイトビート。
「う、いや、なんと言うかさ……」
 彼の視線が、助けを求めるようにさまよう。
 私も、それ以上言葉を繋げられない。もともと、あういういたずらっぽい台詞なんて私には似合わない。
 二人とも何も言えず、トリオのメロディだけが店内に響いていた。
「あ、あのっ」
 耐えられず、私は声を出した。何も思い浮かばないけど、黙っているよりはきっとまし。
「何かな?」
 少しは落ち着いたのか、彼は年相応に大人ぶった声を出す。これが、たった数年でも過ごしてきた年月の違いというものだろう。でも、それであるなら、もっと早くに今の雰囲気を何とかして欲しかった。
「お願いがあるんですけど……」
 そう口に出して、私はやっと自分が何を求めていたかに気が付いた。
「また、私の書いたものを読んでもらって良いですか?」
 じっと彼を見つめる。自分をかわいく見せようとかそんなことを考える余裕なんてない。だから、彼も今度は目をそらさずに私の目を見つめ返してきた。
 テーブルをはさんで、見詰め合う。
 ピアノとベースが、絡み合うようにソロの応酬を繰り返している。
「――良いよ。僕の感想でよければ、いくらでも聞かせてあげるよ」
 彼はそう言って席を立つ。手には、私のテーブルに置いてあった伝票。
「あ、あの」
「ん? 約束とかしなくたって、また明日とか、その次の日とか来ればいるだろ?」
「いえ、そうじゃなくて……」
「ああ、これ?」
 手に持った伝票をひらひらと振る。
「良いもの読ませてもらったからね。そのお礼。――あ、でも次からはないからね。今日だけは特別さ」
 私は、会計を済ませてカラカラという鐘の音ともに出て行く彼をただ黙って見送るしかできなかった。
「もう、ずるい……」
 なぜか、そんな言葉が自然と口をつく。
 ビル・エヴァンズがMy Foolish Heartを弾いていた。

"My Foolish heart" is over.
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2006年01月02日

或る文章家の言葉

 小説が産まれる時というのは、特別な時ではない。
 歴史に残るようなライブの夜でもなければ、熱狂の舞台の上でもない。
 ただただ、一人、机に向かい文字を並べているその延長線上にのみ、小説が姿をあらわす。
 昔は万年筆が原稿用紙に文字を並べていたが、現代の文章家たちはQWERTY配列のキーボードで電子データを創り出す。
 それ以外は変わることはない。
 微かなランプの灯りが、青白いモニターの発光が文章家の顔を照らす。
 朗々と響く台詞も、絹織物のようなピアノの調べも、轟音で繊細なディストーションギターもない。
 ひたすらに文字を並べる音だけが響く。
 画家がキャンバスを鮮やかな色彩で飾り立てる代わりに、文章家は画面に味気ない文字を並べていく。
 文章は、弱い。
 絵や写真のように、美しい風景を切り取ることができない。
 オーケストラのように壮大な幻想も、ロックのように直情的な初期衝動もない。
 あるのは、文章家の妄想だけ。
 暗い部屋で、ひとり綴り続けた妄想だけが、文章にあらわれる。
 陽のあたる場所を、彼らは望む術を知らない。
 彼らにとって、太陽は希望ではない。
 それは、狂った理性の象徴であり、人を殺す理由たるものである。
 銀幕のヒーローよりも、地下室の青年に。
 テレビのアイドルよりも、ふとんの中の虫に。
 スポットライトの下で愛を訴えるよりも、牢獄で自分を殺してくれと懇願する。
 これが、彼らの本性である。
 弱い彼らが創り出す文章もまた弱いことは、当然の摂理である。
 だから、やめてくれ。
 そんな目で、私を見るのはやめてくれないか?
 私は、弱いんだ。
 太陽の光にも、
 スクリーンに映るスターの表情にも、
 遠い異国の風景を描いた絵画にも、
 あのストラトのパワーコードにも、
 そして、無邪気な子供の笑顔にも耐えられない。
 私は、弱いんだ。
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2005年12月25日

幸せな灯りの下に

「すごいね……」
「うん……」
「冬祭りのときだって、こんなに人いないよね……」
「そりゃ旭川と東京じゃ全然違うべさ……」
 いくら人口約三十六万人を誇り、北海道第二の都市である旭川とはいえ、日本の首都東京にはかなわない。
「あー、こんなんならうちでゆっくりしてるんだったね」
 あくまでゆっくりしか進まない行列。
「……だれだよ、ミレナリオ行きたい、とか言ったの」
「……あー、ほんとしばれるねぇ。北海道とはまた違った寒さがあるよねぇ」
 北海道の旭川ーー近くの町では、日本最低気温を記録しているーーから上京して初めての冬。姉は三度目。北海道から来たんだから、寒いのには慣れてるんだろ? と言われることも多いけど、寒いものは寒い。
「……ったく、仕方がないなぁ」
 口ではそう言いながらも、実はまんざらでもない。
 だって、今までテレビとかでしか見たことのないようなクリスマス! その現場にこうやって来ているんだから、興奮しない方がおかしい。惜しむらくは、隣にいるのが可愛い彼女じゃなくて実の姉だということ。まぁ、美人な方だとは思うけど、姉が相手じゃ、デートじゃなくて家族サービスというのが妥当なところだろう。
「こんな美人のお姉さんと一緒にクリスマスできるんだから、幸せに思いなさいよ」
 ……自分で言うかよ。

 とまぁ、諸々の事情もあり、僕は東京でも有数のクリスマススポットのひとつ、丸の内は東京ミレナリオに、姉と来ている。
 きっかけは「ミレナリオ行きたい」という姉の一言。
「そういえばさ、クリスマスはひとりでゆっくりしてるとか言ってなかったっけ?」
「だって、昼にテレビでやっててきれいだったんだもん」
「やっぱり思いつきかよ。というより、去年とか来なかったの?」
 今年はクリスマス直前に彼氏と別れた姉だが、去年はまだラブラブモードだったはず。
「去年はね、横浜に行ったからね。こっちには来たことないのよ」
「へぇ……」
 自分で聞いたことで、姉の答えも予想通り。
 でも、どうしてか、どこか胸に小さなとげが刺さる。
「って、もう良いじゃないっ。今年は今年で楽しくしないと、ね」
 そう言って微笑む彼女を見て、そのとげが少し大きくなる。
 カップルだとか家族連れが並ぶ列が、少しずつ進んでいく。
 今年の冬はとても寒い。数年ぶりの寒さらしい。でも、列は寒くはない。
 だって、こんなにもいっぱいの人が、いっぱいの幸せを持っているから。
 けれど、僕の胸には小さな痛みが残ったまま。
 原因不明の痛み。

 信号がかわり、列が一気に進む。人の波に押されて、姉と離れてしまいそうになる。
「わ、わわわっ」
 離ればなれにならないように歩く。
「ふぅ、何とか大丈夫だったね」
 無事、道路を渡り追えた。
「ああ、やっぱりすごい人だなぁ」
「ねぇ、迷子になっちゃ大変だよね」
「迷子って年でもないだろ」
「でも、一回離れちゃったら、合流できないよね……」
 携帯電話で、簡単に連絡はつくし、互いがどこにいるかも確認できるだろう。でも、そこへたどり着くのは難しいだろう。
「そうだよなぁ。これだけ人がいたら身動きできないもんなぁ」
 列は遅々として進まず、なかなか会場に着かない。地図で見ればすぐのところなのに。
「ね、離ればなれにならないようにしなきゃね」
「そうだな。面倒なことになっても困るしな。……手でも繋ぐ?」
 前に買い物行ったときにも手は繋いでいるんだけど、改めて口に出してみるとなんだか恥ずかしい。
「へへへ、それよりもね……」
 何かを思いついたような顔。
「な、なんだよ」
 ちょっと身を引いてしまう。
「こうすれば、絶対に離ればなれにならないよ」
 姉はそう言って、ぎゅっと僕の腕を引き寄せた。
 僕の右腕に、姉の左腕が絡む。いわゆる、腕を組んでいるという状態。
「ちょ、ちょっと……」
 手を繋いでいるよりも、ずっと近くに姉がいる。
「ね、大丈夫でしょ」
 僕の顔を見ようとすると、姉は自然に上目遣いになる。
「う、うん」
 いつもよりも大きく、彼女の顔が写る。
 きれいな目、柔らかそうな唇。化粧品の、女性らしい香りが鼻をくすぐる。
 香りは胸のとげにからみついて、柔らかく溶かしていく。
「ねぇ、見えてきたよ」
 光のゲートが近づいてくる。
 きらきらと、きらきらと。
 きれいなきれいな、幸せそうな灯り。
 灯りの下には、笑顔が広がっている。
 今が、こうして幸せなら。
 誰かを、大切だと思えるなら。

「メリークリスマス、だな」
 組んでいる腕を、ちょっとだけ強く引き寄せて。
「うん、メリークリスマス」
 そこに、大切な笑顔があることの幸せを。

"Xmass with Sister" is over.
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2005年12月05日

12月の彼女

 僕が東京の大学に通うようになって、先に上京していた姉と一緒に暮らすようになってから半年以上経ったけれど、二人で出かけるといえば近所のスーパーがせいぜいで、こうして電車に乗ってまで買い物に来るなんてはじめてのことだった。どうして急に? と理由を聞いても、姉は何も答えてはくれず、僕はただそれを類推することしかできず、結局は幼かった頃にもあった気まぐれのひとつだろうと結論づけることにする。
 師走の街を行く恋人たちは、オレンジや淡く白いイルミネーションに照らされ踊っている。それぞれに些細な不幸せはあるかもしれないが、おおむね幸せな風景と言っていい光景だった。
「うぅ、やっぱり寒いね」
 洋服だとか化粧品だとかのショップの袋を持つ姉の手は素手のままで、赤く凍えていた。
「だから手袋はいた方がいいって言ったしょ」
 僕の手には、姉の倍の数のバッグがぶら下がっている。残念ながら、自分のものはひとつもない。
「なにそれ。思いっきり北海道弁丸出しぃ」
「そうかい?」
「うん。ちなみに、そうかい? っていうのも北海道弁っぽい気がするな」
「えー、それは嘘でしょ?」
「そんなことないって、東京に出てきて三年のわたしが言うんだから間違いないって」
 一緒に住んでいても、二人の生活のリズムは少しずれているし、そもそも互いをできるだけ干渉しないように、というのが僕と姉の間にできた暗黙のルールだったから、こうして二人で話すというのはあまりなかったような気がする。

「ねぇ、もうクリスマスだね」
「ああ」
「なんか予定とかあるの?」
「いや、別に……」
 たぶん、サークルの部室で集まって朝まで麻雀というのが妥当なところだろう。
「淋しいねぇ」
「そういう姉ちゃんは?」
「わたし? 今年は静かにキリスト様に祈りを捧げてみようと思ってね」
「つまりは、姉ちゃんも淋しいクリスマスってことか」
「ーーなんか生意気」
「姉ちゃんてさ、彼氏いなかったっけ?」
「うーん、なんとなくねー」
「うわっ、こんなクリスマス直前に別れたのか。せめて年明けまで待ってれば良かったのに……」
「ふん、思い立ったが吉日って言うしょ!」
「あ、それ北海道弁」
「う……」

「それにしても、ほんとに寒いね。北海道より寒いんでないかい?」
「姉ちゃん、もう完全に北海道弁になってるよ」
「いいしょや、それくらい」
「まぁ、別に良いけど。それにしても、確かに寒いね。北海道ほどじゃないけどさ」
「でしょ? だから手袋かたっぽちょうだい」
 僕の右手から手袋をはぎ取り、それを自分の右手に履かせる。
「うわっ、いきなり何すんだよ」
「いやぁ、やっぱり手袋しないと寒くてだめだわぁ」
 僕の右手は、姉に手袋を取られて素手になって、姉の右手は僕の手袋で温められて。
「あんた、こんなに手大きかったっけ? ぶかぶかだよぉ」
 曲げたり伸ばしたりしている指の先が、ひと関節分くらい余っていた。
 そんな彼女を改めて見る。
 顔が僕よりも頭ひとつ分以上低い場所にあるし、素肌が見えている指は、覚えていたものよりも細く見える。歩幅だって、僕の三分の二か半分しかない。少し、歩みを遅くする。
「いつまでも子供じゃないよ。姉ちゃんだってさ、もっとおっきくなかったっけ?」
「そう? あんたがおっきくなりすぎただけよ」
 そう言って、空いている左手で自分の頭の高さと僕の背を比べる。
 あの頃は、姉の方がずっと大きかったし、ずっと大人だった。でも、いつの間にか僕の背が姉の背よりも高くなったし、彼女ほどではないが大人になったつもりだった。でも、まだ僕は彼女の弟で、彼女は僕の姉だった。それはきっといつまで経ってもかわらない。僕が彼女よりも年上になることはないだろう。死が二人をわかつまで。
「姉ちゃんはさ、ずっと僕の姉ちゃんだよな」
「何言ってんのさ? あんたって馬鹿だけじゃないとは思ってたんだけどね」
「馬鹿じゃないよ……な、手、冷たいだろ?」
 姉の左手を、強引に右手でつかむ。
「ば、何すんのさ、いきなり!?」
「いや、僕も誰かに手袋とられたせいで右手が冷たくてね。その誰かに暖めてもらおうかな、と」
「もう、ばか……。繋いでるだけじゃまだ冷えるべさ」
 姉のコートの左ポケットに、二人の手が収まる。
「あったかいしょ?」
「うん。やっぱり姉ちゃんは姉ちゃんだよな」
「あたりまえさ。あんたも良い弟でいるんだよ」
 冬の街は、どこもかしこも恋人だらけで、姉と二人というのはちょっと淋しい気がしたけれど、とても暖かかった。

 二人で歩いている姿を友人に見られて、「お姉ちゃんが恋人事件」に発展することになったりするが、まぁ、それは別の話と言うことで。

"Winter Sister" is over.
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2005年07月25日

桜山城の姫君

「ねえ、帰りましょう?」
 凪姫が佳姫の袖を引く。一晩中引かれ続けた袖は、もう、何千丈にも伸びてしまったかのようだった。
「あともう少しで朝になるのだから、それまで我慢よ」
 もう、何回凪姫に同じ言葉で言い聞かせたことだろうか。
「でも……」
 泣きそうな顔でうつむく凪姫。
「大丈夫よ、何も怖いことなんてないわ。もうすぐ朝になって、きれいな桜のお姫様が会えるのだから、ね」
 佳姫はそう言って凪姫の頭を撫でる。彼女は、凪姫のしっとりと濡れたような、なめらかな髪の感触が好きだった。
「−−うん」
 凪姫は、弱々しくも頷いた。
「そもそも、桜山城の精霊姫に会いたい、と言い出したのは凪姫でしょう?」
「うぅ、佳姫のいじわる」
 その拗ねたような表情を見て、佳姫は少し安心した。

 −−桜山城の精霊姫。
 それは、この国に言い伝えられている伝説のひとつだった。
 城下町のほど近くにある、うち捨てられた古城・桜山城。
 その起源も、いつ捨てられることになったのかも、何もかもが正しくは知られていない。
 知られているのは、春に咲く桜が美しいということと、精霊の姫が棲むということ。
 その姫は、現世のものでは至ることのできない美しさで、男を惑わすと言う。それ故、春の桜の美しさにもかかわらず、花を愛でに訪れるものは皆無であった。
 実際には、桜山城を訪れた男たちはいた。しかし、男たちのほとんどは戻ってこず、戻ってきた数少ないものたちも、貝のように口をつぐむか、もしくは気が違って言葉を解することができなくなっているかのどちらかだった。
 美しいものを見たいのは、男も女も同じであった。
 男たちには、精霊の姫を己のものにしたいという欲望もあったかもしれないが、女たちは、精霊の姫に憧れ、夢見がちな頃には、精霊の姫にお仕えしたい、と瞳を輝かせる少女もいた。
 そして、いつからそのような話ができたのだろうか。
 −−桜山城の精霊姫は、その気高さ故に人間の男と交わること許されず。
 その禁を犯した人間は、その咎を背負うことになる。
 貞淑な少女のみが、その側に控えることを許される。
 桜山城の精霊姫は、男子の犯さざるべき道を説き、女子にはあるべき姿を示す存在となっていた。

 佳姫も凪姫も、精霊姫の側にいられるような立派な姫になるように、と言われ育てられてきた。それは、この国の姫たちが当然のように言われることであった。
 凪姫が他の姫たちと違ったのは、皆は精霊姫などお話しの中だけの存在、実際にはいない、と考えていたのに対して、彼女は本当に精霊姫はいて、自分はいつか、精霊姫のもとに仕えるのだ、と信じていたことであった。
 凪姫が語る精霊姫との桜山城での暮らしは、絵巻物の中にしかないような、雅で穏やかな毎日だった。 屋敷が隣同士で、凪姫を妹のように思っていた佳姫は、そんな凪姫の話をいつも聞いていた。夢を語る凪姫の瞳が大好きだった。
 なのに、彼女は夢の中に生きている妹をこの場所に連れてきてしまった。仕方のないことだ、と自分に言い訳してまで。
 最近、隣国との関係が良くない−−はっきり言うと、最悪、戦の一歩手前まで来ているということを、佳姫は大人たちの会話から漏れ聞いていた。そして、もし戦となれば、隣国にこの国が蹂躙されることも、勘付いていた。むしろ、今までそうなっていなかったことが奇跡だったのかもしれない。もしくは、戦乱の世を終わらせるという隣国の覇王の気まぐれか。
 凪姫が精霊姫との生活を夢想することも、佳姫がそれを暖かく見守ることも、もうすぐできなくなるはずだった。
 その前に、佳姫は凪姫を桜山城に連れて行ってやりたかった。
 凪姫なら、崩れ落ちた城跡からでも、いつか訪れたであろう生活を見て、それを支えに生きていけるだろうと思ったから。
 もし−−もし本当に精霊姫がいたならば、それはそれで良い。凪姫は精霊姫の側にいるのにふさわしい姫なのだから。

「ねえ、朝はまだなの?」
 葉桜の山を登り、崩れかけた石垣を越えてたどり着いたあばらやで、二人は肩を寄せ合っている。このあばらやが元々城の建物のひとつだったのか、それとも後の人が作ったものなのか、佳姫は知らなかった。
「あとひと刻もせずに明けるわ」
 着物の袷をぎゅっと握る。こんなに夜が寒いとわかっていれば、もうひとえ重ねてきたのに。
 −−精霊姫は夜が明ける刹那にだけ、その姿を現す。
 凪姫にそう信じさせたのは佳姫で、そのことを伝えたのは、昨日の夜だった。
 はじめは、この古城の有様を見て、それで終わらせるつもりだった。
 けれど、この場所に着いてみて、佳姫は待ってみようと思った。
 凪姫に、精霊姫は夜明けに現れると説明しながら佳姫は気が付いていた。自分も、精霊姫の存在にすがりたくなっていることを。
 自分や凪姫の将来は明るくはない。この夜のような待っていれば明ける暗闇ではなく、永劫明けることのない闇が待っている。戦に敗れた国の姫の運命は、悲しいものしかない。数十年の間艱難辛苦に耐えることになるか、それとも幾日も待たずに殺されるか。どちらにせよ、最期の時まで持っていられる思い出が欲しかったのかもしれない。
 このまま永久に待ち続けることができたのなら−−佳姫はそう思う。
 待つ、という行為がこれほどに希望を持っているのだとは知らなかった。
 大切な凪姫がいて、彼女は自分の夢がかなう瞬間を、怖がりながらも期待に胸をふくらませて待っている。今、この場であるのなら、妹のように大切な凪姫の頭を撫でることも、抱き寄せることもできる。
 でも、これから先は?
 隣国の者に捕らわれて、離ればなれになってしまったら?
 凪姫の大きな瞳からこぼれる涙を拭いてあげたり、流れる黒髪を梳って慰めることも、何もできない。佳姫には、自分がどのようなひどい目に遭うことよりも、そのことの方が怖かった。

「空の色が変わってきたわ」
 凪姫が嬉しそうな声を上げる。
 その言葉通り、漆黒の闇は濃い宝石のような青に変わりはじめ、煌めいていた星たちは舞台から退場しようとしていた。
「……もうすぐね」
 葉桜の城の中、佳姫はもうこれ以上空が青くならないことを祈りながら答えていた。

"Silent dream" is over.
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2005年07月18日

おはよう

 おはよう。
 さぁ、起きて。
 暖かな春の陽がキミを待っているよ。
 鮮やかな花はキミを祝福しているし、
 あえかな桜は、キミのために可憐なトンネルを用意してくれたよ。
 だから、怖がらずに、そのライナスの毛布を放してごらん。
 もし怖いというのなら、ボクがキミを守ってあげるから。
 だからーー

 おはよう。
 今日はあいにくの雨。
 でも、キミは起きなくちゃいけない。
 いつまでもそうしてはいられないだろ?
 外は怖いことばかりじゃない。
 雨の日だって楽しいことがあるようにね。
 水たまりの波紋だって、葉をうつ音だって、
 どれも晴れの日には見られないし、聞けないものだよ。
 それを見もしない聞きもしないというのは、
 ちょっとばかりもったいないんじゃない?
 だから、いってらっしゃい。
 お気に入りの傘を持っていくと良い。
 そうして、雨に唄えば、きっと楽しいからさ。

 おはよう。
 外では早起きの蝉が、うるさいくらいに鳴いている。
 小鳥だって、負けてない。
 昼間には肌を灼き尽くす夏の太陽も、
 この時間には、まだキミを心地良く迎えてくれる。
 少しずつ遠くなっていくボクにはわからないけれど、
 きっと、そこにも柔らかな風が吹いているんだろう。
 風が一番優しいのは、夏の朝だよ。
 エアコンの人工的な冷たさじゃない、
 海を渡り、森を揺らし、草原をそよいだ風の優しさ。
 それに触れれば、キミもきっと優しくなれるから。

 おはよう。
 森の木々はすっかり色づいているね。
 紅だとか黄色だとか。
 そんな葉を見ていると、ボクは自分の語彙の少なさに絶望を覚えるんだ。
 さぁ、起きて見に行くと良い。
 赤い葉、と言っても、ボクが伝える以上にいろいろな赤があって、
 黄色い葉、と言っても、ボクが伝える以上にいろいろな黄があるんだから。
 地面に落ちた葉を踏みしめるのも良いだろう。
 かさかさ、とてもきれいな音がするよ。
 離れていくボクは、もう紅葉を遊ぶこともできないし、
 葉音の音楽を奏でることも聴くこともできない。
 だから、キミがかわりにそれを楽しんでくれればいいな。

 おはよう。
 冬は早朝が良い、そう書き残したのは誰だったろうか?
 起きてみれば、彼女が本当に当然のことしか書き残さなかったがよくわかるよ。
 いや、もしかしたら、その当然のことを書く、
 それ自体が非常に意味のあることなのかもね。
 凛とする、そんな言葉があるけれど、とても良い言葉だと思うんだ。
 こんな晴れた冬の朝は、それを実感するよ。
 空気はこんなに冷たくて、刺すように痛くて厳しいはずなのに、
 それが苦痛じゃない。
 きっと、夜の間に降り積もった雪も、
 暗闇の中で浄化されたような空気も、
 みんな純粋だからじゃないかな。
 ボクのような人間でも、その純粋さが嬉しかったのだから、
 キミはきっと、この空気を気に入ってくれるはず。
 だから、その暖かなベッドから起き出してごらん。

 おはよう。
 ーーまだ、ボクの声は聞こえるかい?
 まだ、ボクのおはようは聞こえているかい?
 ずいぶん遠くまで来てしまった。
 もうすぐキミにボクの声は聞こえなくなる。
 ボクは、キミにおはようを言えなくなってしまう。
 でも、寂しく思わないで。
 ほら、また春がやってきた。
 去年と同じように、桜のアーチがキミを迎えてくれる。
 だから大丈夫だろ?
 穏やかな春の日も、
 濡れる梅雨の日も、
 鮮やかな夏の日も、
 色が踊る秋の日も、
 白が静む冬の日も、
 キミはいろいろなものを見つけ出せる。
 だから……さぁ、起きて。
 もう、声が届かない、キミへ。
 最後のおはよう、を……

"Good morning for you" is over.
posted by 言人 at 21:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月23日

青い夜空

 その少女は、夜のカフェで紅茶を飲んでいた。
 店は繁盛していて、どのテーブルも愛をささやく恋人達や、毎日の糧に談笑を交わす友人達でいっぱいだった。だから、僕は仕方がなく、その少女と同じテーブルに座った。通りを眺めたかったので、窓の外が見られる席に座る。それは、自然に少女の隣の席だった。
「珍しいのね」
 軽いアルコールを運んできた店員がテーブルを離れると、彼女はそうやって僕に話しかけてきた。
「珍しいって、何が?」
「こういうときは、先客の対角線上に位置するように座ろうとするものだわ。それなのに、あなたはすっと私の隣に座ったわ。はじめは、この人ナンパでもするの? と思ったけど、私に声をかけるそぶりもないし。ーー自分で言うのも何だけど、私、見知らぬ男の人に声をかけられても良いくらいの容姿は持っているつもりなの」
 そう言う彼女は、確かに可愛い。座ってすぐ声をかけなかったことに、今更ながら後悔する。しかし、もし声をかけていたら、彼女はすっと前に席を立って、この店を出て行ってしまっていただろう。
「……聞いても、おもしろい事なんてないよ」
「それでも良いわ。私、がっかりなんてしない」
 一瞬迷ったあと、話すことにした。
「外を、見ていたんだ」
「外を? ここから見えるのは、どこにでもあるような、ありふれた風景だけ。あなたは、それを見ていたの?」
「がっかりしただろ」
「いいえ、もっとあなたに興味を持ったわ。良ければ、どうして外を見ていたのか教えてくれる?」
 柔らかそうな髪をかき上げながら言った。
 好奇心丸出しの彼女に、理由をそのまま教えるのはもったいないと思った。
 そもそも、本当にどうしても外が見たかった訳じゃない。カフェの中を見るよりはおもしろそうだと思っただけだ。
「ーー君は、カフェの中を眺めるでもなく、鞄から文庫本を取り出すでもない。そして、隣の可愛い女の子にも声をかけない男が、どうして外を眺めていたんだと思う?」
「質問を質問で返すのは、あまり感心しないわね」
「気を害したのなら、謝るよ」
「でも、今回は特別。考えてみれば、私の質問も短絡的で無粋だったかもしれない。それに比べれば、あなたの質問は素敵だったわ」
 満足そうに微笑む。
「ええと、あなたが外を眺めていた理由ね? そうね……誰かが来るのを待っていたから。その人が通りからこの店に入ってくるのを見逃さないように、というのはどう?」
「残念ながら、僕には待ち人はいないよ。ほら、寂しそうに見えるだろ?」
「確かに、いつも大勢でいるような人には見えないわね」
 ……本当に素直な物言いだ。
「人を待っていたんじゃないとすれば、僕はどうしていたんだと思う?」
 気を取り直して。
「ええと、ちょっと待って」
 そう言って彼女は、その大きな瞳で僕の顔を見つめた。
 微かに潤んだ瞳に、形良くそろった睫毛。
「ど、どうしたんだい?」
 こんな風に見つめられて、胸を高鳴らせない男はいない。
「あなたを見てるの」
「どうして?」
「通りを眺めていたのはあなただから。一般的にどんな理由があるかとか、そう言うのは無意味なのよ。普通の人が通りを眺めていた理由を考えるんじゃなくて、あなたが通りを眺めていた理由を考えるんだから」
 僕は、彼女の、微かに褐色の瞳から目を離すことができない。
「……きれいな瞳」
 ぽつりと、彼女の口から声が漏れる。
「僕の瞳が?」
「そう、あなたの瞳が」
「誰にだってあるような、なんの特徴もない瞳だよ」
「それは、あなたがそう思っているだけよ」
「そうかな」
「そうよ」
 きれいだというのなら、彼女の瞳の方が僕の瞳よりもずっときれいだろう。
「そんなにきれいなのは、きっときれいな色を見ていたからね」
「色?」
「色。それも、きっと、きれいなコバルトブルー」
「どうして、コバルトブルー?」
「コバルトブルーは、世界で一番素敵な青だわ」
「鮮やかなスカイブルーとか、透き通るエメラルドブルーだとかはだめなのかい?」
「スカイブルーは、鮮やかすぎて軽薄だわ。エメラルドブルーには奥深さがないわ」
「それじゃあ、どうしてコバルトブルー?」
「コバルトブルーは優しくて、あえかで、柔らかくて、そして冷たいわ」
「冷たい?」
「だって、コバルトブルーは夜の青だから」
 その、冷たさに触れるように、彼女は細い指を僕の頬に伸ばし、僕の視界には、コバルトブルーに浮かび始めた、今宵の星が見え始めていた。

"Blue Cafe" is over.
posted by 言人 at 18:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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