2005年05月09日

感傷罪

変わりゆく街でも、
鮮やかな緑と柔らかい木漏れ日は、
変わらず僕を迎えてくれた。
緑の匂いは、これほどまでに濃いものだったのか、
そんなことに、今更ながらにして気が付く。
山には、マンションがへばり付く代わりに、木々が葉を踊らせている。
その風景が、
その風景がこんなにも美しいものだとは知らず、
その風景がこんなにも得難いものだとは知らず、
その風景の中に、もう自分がいないことに気が付いて、
僕は泣いた。
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2005年05月02日

その強き翼に

空は薄曇り。
きれいな薄青ではなかったが、
嫌みなまでな青よりは、好ましく思えた。
大きな鋼鉄が、列をなし飛翔の時を待つ。
音とともに、その身を空へと引き上げる。
彼らが空を飛べるのなら、
私のこの、重く暗い心情も軽やかに飛び立てるのではないか。
けれど、私には、彼らの大きな翼に
仮託できるほどの想いは、無かった。
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敗北してもなお

私は、その人の詩にうちのめされた。
自分が考えていたことは、
彼がすでに通り過ぎた場所であり、
そして何より、
彼の言葉は私の言葉よりも、遙かに美しかった。
矮小な言葉を綴るしかない私は、
彼が描いた美しい詩歌に心情を託すしかないのだろうか。
いや、それもできぬ。
己の内からどうしようもなく溢れ出るものが心情であるのなら、
それを表すのは、ただ己の言葉にしかできないことだから。
だから、今日もこうして文字を連ねている。
指動くままに連ねるのみ。
脳動くままに連ねるのみ。
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2005年04月26日

叩きつけるだけの停滞感

また、今日も終わる。
そして、明日が始まるだろう。
毎日毎日、変わることのない生活。
喜びを感じることも、疲れを感じることも、
それすらもスケジューリングされているのに過ぎない。
押しつぶされそうになって、叫びたくなっても、声は出ない。
ただ、喘ぐ息が漏れるのみ。
そうしているうちに、どうして叫びたかったのすら忘れる。
すべて、こともない。
そうして毎日が過ぎていくなら、
こうやって、人生が終わっていくのも良いんじゃないのか?
薬で曖昧になる意識の中、そう問いかけた。
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2005年04月25日

衝動的眩暈

眩暈がする。
目の前には曇硝子のスクリーン。
遠い。
周囲がはっきりとしない。
何とか意識を保とうと、耳元でなる音楽のボリュームを上げる。
駄目だ。
駄目だ。こんな音じゃない。これじゃ意識は遠のいていくばかりだ。
くそ。
暑くないのに、嫌な汗が流れている。
寒くないのに、震えが止まらない。
急ぐ人が、俺を押しのけていく。ふらつく。
くそ。
激しく鼓動しているのに、頭がぼおっとしている。血が、足りていない。
激しくあえごうとも、酸素が肺に入っていかない。
くそ。
また、押しのけられた。
死ね。
ふらつきながらも、階段を上がる。
殺してやる。
一段一段が、越えられない壁に感じる。
壁は、果てることなく、続いている。
生きるな。
くそ。くそ。死ね。殺してやる。
曖昧なまま、歩く。殺せ。
席についても、まだ動機は収まらず、震えも止まらないし、背中は汗で湿っている。
殺してやる。
隣の人間がむかつく。殺せ。
精神が高揚し、暗い淵に沈んでいく。
殺してやる。
意識が遠のき、感覚が鋭敏になる。
殴れ、絞めろ、刺せ、撃て。
安らかに覚醒し、激しく眠る。
殺してやる殺してやる殺してやる。
いつか……今すぐ……殺してやる。
死ね。
カプセルを飲む。ナイフを突き刺す。舌を噛む。
これくらいすれば、死ぬだろう。殺せるだろう。
死んでしまえ……死んでしまえ……
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2005年04月17日

覚えているよ

 卯月の優しい光。空は青く澄み、撫でる風は柔らかい。
 透かされた葉は鮮やかに揺れ、微かな葉擦れの音が耳をくすぐる。
 犬は嬉しそうに走り、猫は穏やかに春眠をむさぼる。
 人は、生命が溢れる季節の到来を歓喜し、笑顔をのぞかせている。
 誰もが、訪れし季節を歓迎するのに忙しく、過ぎ去りし季節を思い遣ることはない。
 一人、消え去ってしまった冬を思い出しても、それはもう、曖昧としてしまっていて、茫漠とした姿しか描くことはできなかった。
 あれほど大きく、長く、辛かった冬を誰もが忘れている。
 だから、こんなちっぽけな自分がいなくなっても、誰も気が付かないだろうし、誰も思い出すことはないだろう。
 身を投げるとき、せめて、最期に自分で自分のことを思った。
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2005年04月16日

 軽い喧噪。
 それは僕には届かない。
 なぜなら、僕には殻があるから。
 自分であるための、固い殻が。
 この世界の怖いものすべてを遮断してくれる。
 誰にもやぶれない、最高の殻。
 だから、僕は傷つかない。
 何も、傷付けない。
 痛みだって、悲しみだって感じなくていい。
 昨日も、今日も、明日も。
 何も心を動かすことはない。
 だけどーーだから?
 僕の殻は、空だった。
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2005年04月14日

花は過ぎて、月は陰り

咲き誇ったのも、今は昔。
すでに葉桜。
そこに華麗さはなく、あえかなる姿もない。
葉達がいくらその姿を見せつけようとも、可憐ならぬ形を愛でる者は皆無。
皆、一様に行き過ぎるだけ。
だから、私は、その葉桜並木を愛する。

黒天に輝いたのも、何時か分からぬ。
欠けたる十六夜。
真円を過ぎ、歪な形態。
気味悪がる者こそあれ、進んで愛でる者無く。
消えゆく姿を残念に見る者もいない。
だから、私は、墜落する月を愛する。
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2005年04月09日

あなたにふれたくて

あなたにふれたくて。
あなたにふれたくて。

あなたとの、ほんのわずかな距離が、縮められなくて。
たった、何メートルかが、限りなく遠いの。
一歩踏み出す勇気さえあれば。
そうすれば、あなたにふれられるのに。
指先だけでも、私の肉片ひとつでも、あなたにふれられれば、それで満足だから。

ここで、踏み出せば、あなたにふれられる?
あなたは私を抱き留めてくれる?
鋼鉄の車輪に蹂躙され、バラバラになった私を、抱きしめてくれる?
あなたがそうしてくれるのなら、迫りくる列車も、怖くはないから。

あなたにふれたくて。
あなたにふれたくて。
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2005年04月05日

束縛された生命

彼は、不自由だった。
産まれてからのそう長くはない年月、取るに足らない歳月でさえ、彼をがんじがらめに縛り付けていた。
親、兄弟、友人、幼なじみ、同級生、先輩、教師、同期、同僚ーー
彼に関わるすべてが、彼にとっては重荷でしかなかった。
行き詰まり、生き詰まっても、もがくことさえ許されなかった。
 彼は、ただ毎日を平静に過ごすだけだった。
 朝、静かに起き、適量の朝食を食べ、満員電車に耐え、会社では自らの使命を果たし、同僚には嫌われぬよう、上司には好かれるよう、最適な言葉を探す。
 耐えられない、逃げ出したかった。
 できることなら、もう一度はじめから……
 しかし、彼の周りのすべてがそれを許さなかった。
 縛る鎖。はめられた手錠。足枷は皮膚を破り、肉にめり込んでいる。
 逃げられない。逃げられない。逃げられない。

 そんな状況から救い出してくれたのが、学生時代からの友人だった。
 友人は、彼のために部屋を探し、誰にも知られないように引っ越しの手はずまで整えてくれた。
 彼は友人に感謝した。
「これで、やり直せるな。がんばれよ。ーー何かあったら、また俺を頼ってくれよ」
 新しい部屋に移った日、友人はそう言い残して去っていった。
 友人が帰って、はじめに彼がしたことは、少ない荷物を縛ってきた紐で、自分の首を吊ることだった。
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2005年04月03日

敗北

 彼には、どうしてもわからなかった。
 自分の周りの人々が、街を行く人々が、なぜあのように冷静でいられるのかが。
 彼らは、怖くはないのだろうか?
 彼は怖かった。
 毎日が、不安だった。
 一刻毎が不安で仕方がなかった。
 秒針が動くたびにどきりとしていた。
 刹那が過ぎるのを、息を潜めて待つしかできなかった。
 しかし、彼はその不安を口にするほどに愚かではなかった。
 母の前では利発さを演じ、友人の前では楽しさを演じ、教師の前では従順さを演じた。
 心中した男の小説を読み、自分以外にも同じことを考えている人がいたことを知った。

 死んだ男は、自分を道化だと表現したが、彼は、自分はコンピュータのオペレーションシステムのようなものだと思った。その時々に最適なプログラムが走り、それをあたかも彼自身の姿であるかのように見せつけている。本当の自分は、暗く、味気ないコマンドラインなのに、鮮やかなウィンドウでいつも誰かを欺いている。
 道化を演じるうちに、自分がわからなくなり、無計画なアプリケーションのインストールが、カーネルに様々なゴミを残していくように、彼の人格も、いつしかがたがたになっていた。
 表層は互いに依存し、干渉し、はじめは自分を守るすべであったものが、彼を苛み始めた。

 解決を図る必要があった。
 心中した男は、わずかな光を文学に求め、その徒花を咲かせることができた。
 彼には、文学の才能は乏しかった。かといって、音楽、絵画、映像などの才能が豊かなわけではなかった。芸術の中に、歪んだ自分を表現してそれに向き合うことは許されなかった。

 そこで彼は、論理を学んだ。
 バラバラになった自己を整理、統合していくために。
 しかし、この挑戦は彼の圧倒的な敗北に終わった。
 学んだ末にできあがったものは、いくつかの新たなアプリケーションだけだった。
 結局、統合などできなかった。
 いや、できなかっただけではない。
 今や彼は、完全に自ら作ったものに苦しめられていた。
 自分であったはずのものが、彼を責める。
 誰かが笑っている。自分ではない誰かが。
 この、顔面の筋肉を動かしているのは誰なのか?
 この、バカのような声を上げているのは誰なのか?
 この、甘い言葉をささやいているのは誰なのか?
 この、自信に満ちあふれた顔をしているのは誰なのか?
 誰だ? 誰だ? 誰だ? 誰だ? 誰だ? 誰だ?
 自分じゃない。
 自分のはずがない。
 なぜなら、自分はここにはいないのだから。
 ぼんやりとした不安、そう残した作家を思い出す。

 夢を見た。
 彼が彼の首を絞め殺していた。
 それが夢だったと気が付いたとき、彼はそれが正夢にならんことを一心に祈っていた。
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2005年03月18日

下手くそ

うまく話せない。
うまく笑えない。
うまく書けない。
うまく描けない。
うまく泣けない。
うまく怒れない。
うまく撮れない。
うまく切れない。
うまく聞けない。
うまく唄えない。
うまく弾けない。
うまく踊れない。
うまく愛せない。
うまく吊れない。
うまく撃てない。
うまく飲めない。
うまく眠れない。
うまく飛べない。
うまく喜べない。
うまく交われない。
うまく悲しめない。
うまく希望できない。
うまく後悔できない。
うまく絶望できない。
うまく、生きられない。
だから、うまく、死ねない。
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2005年03月13日

無意識無自覚

何時間起きているのか、
何時間寝ているのか、
それも定かではなかった。
思考が始まらない。
何も分からない。
何も動かない。
止まったままでいる。
停滞。
ここは、暗闇でもなく、光の中でもなく。
溢れているのでも、枯れているのでも。
何も無く、何も無い。
虚空に飛び降りても、何も思い出しはしなかった。
こんな自分の頭の中に、どれくらいの脳漿が詰まっていたのか。
最期にそれを見届けられなかったのが、たったひとつの心残りだった。
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2005年01月31日

このまま、何もかもを吐き出してしまえたら、と思う。
そして、咳き込む。
ある句を思い出したりもする。
それくらいに、孤独。
咳き込み、喉が苦しい。
ひとりも、苦しい。
苦しい、苦しい。
咳が止まらない。
苦しい。
喉を掴む。
苦しい、苦しい。
力を入れる。遠くなる。
このまま、力を入れ続ければ。
咳が止まらない。
苦しい、苦しい。
呼吸を止めてしまえば、咳も止まるはず。
喉を抑える手に、いっそうの力を入れた。
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2005年01月27日

しんえん

今宵は、真円なる月が光る。
深淵なる闇の中、光り輝いている。
神苑なる光景に、
深遠な恐れを抱く。
太陽に比べて、数倍も神々しい光が、私を照らす。
この光ならば、心猿にもなろう。
だから、神垣を越え、深遠なる神苑の中、真円で深淵な深怨におちてゆく。
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2005年01月25日

夜の電車

夜の電車は死にたくなる。
疲れ果てた会社員。
平日だというのに酔っぱらったオヤジ。
妙に気取っているOL。
朝の電車では沈黙を楽しんでいたそいつらが、一斉に話しだす。
その雑音の中、僕は死にたくなる。
下らない言葉の中、何も信じられなくて、死にたくなる。
ただ、夜の電車に飛込むのだけはやめようと思う。こんな意味のない言葉の塊だけは、嫌だ。
だから、駅に着いたら、ロープを買いに行こうと決めた。
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2005年01月22日

クスリ

寒気がしていた。
体中の関節を痛めつけていたその何かは、いつの間にか頭を挟み込んでいた。
苦痛。
ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり
ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち
だから、薬を飲もう。
痛みを忘れられるように。
苦しみを忘れられるように。
この、ぼんやりとした不安も忘れられるように。
薬を飲もう。
たくさんたくさん、薬を飲もう。
青い錠剤も、白い粉末も。全部、全部飲もう。
そうすれば、きっと全て良くなるはずだから。
痛い、と思う心も、居たい、と思う心も、全て遺体になるだろうから。
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2005年01月19日

疲労感

徒労の末に何を求めているのか、分からないけれど。
とにかく、もう疲れてしまったから。
終わろう。
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2005年01月16日

冷たさ

雨が降る。
冷たい冷たい雨が降る。
どうせ、これほどまでに冷たいのなら、いっそ、雪になってほしいとも思う。
そうすれば、いくらか街はきれいになるだろう。
いくらかは手に触れる事ができるようになるだろう。
雪が積もって、周りが白で埋め尽くされて、
それを赤で染めるというのは、とてもきれいに見えるはずだし。
でも、今は雨。
私から流れる赤は、冷たい雨に流されて行くだけ。
……雪になれば良いのに。
最期に、そう思った。
posted by 言人 at 22:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月15日

Rain Fall

落ちてくる。雨が落ちてくる。
私の髪を、身体を、濡らしていく。
冷たい。
そう感じて、私もまだ冷たさを嫌だと感じる事が出来たのだと気がつく。
もう、そんなこと感じないと思っていたのに。
だから……
今なら、感じる事が出来るだろうか?
私は終わる事の悦びを感じようと思って、ナイフを手首に当てた。
posted by 言人 at 22:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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