2015年12月01日

ss44

「先輩、指きれいですね」
 彼女が突然そんなことを言い出したのは、二人、喫煙所でちょっと休憩、なんてしてるときだった。
「そんなこと言われたの……初めてかも」
 自分ではそう思ったことなんてないし、ちょっと恥ずかしい。
「そんなぁ。きっと、みんな見る目がなかったんですよ」
 そう言って、彼女は、タバコを持っていない、私の左手に触れる。
「そう……かなぁ……」
 細い指の感触に、ドキドキと胸が高鳴る。誤魔化すように、タバコを口にする。
「そうですよ──」
 そして、そのまま、私の指を顔の前まで持っていく。
「──!?」
「こんなに、いい匂いだってするのに」
 くんっ、と軽く匂いをかいで言う。
「ちょ、何やってるのよ。──タバコ臭いでしょ?」
 その指先が、自分のものじゃないみたいに熱くなりそうで、こわくて、逃げるように振り払う。
「でも、それも、わたしの好きな先輩の匂いなんですけどね」
 そう呟く彼女に、私の心の匂いも見透かされてしまいそうで、
「もう、そんなこと言わないの」
 と、灰皿にタバコを沈めた。
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posted by 言人 at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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