2005年04月17日

覚えているよ

 卯月の優しい光。空は青く澄み、撫でる風は柔らかい。
 透かされた葉は鮮やかに揺れ、微かな葉擦れの音が耳をくすぐる。
 犬は嬉しそうに走り、猫は穏やかに春眠をむさぼる。
 人は、生命が溢れる季節の到来を歓喜し、笑顔をのぞかせている。
 誰もが、訪れし季節を歓迎するのに忙しく、過ぎ去りし季節を思い遣ることはない。
 一人、消え去ってしまった冬を思い出しても、それはもう、曖昧としてしまっていて、茫漠とした姿しか描くことはできなかった。
 あれほど大きく、長く、辛かった冬を誰もが忘れている。
 だから、こんなちっぽけな自分がいなくなっても、誰も気が付かないだろうし、誰も思い出すことはないだろう。
 身を投げるとき、せめて、最期に自分で自分のことを思った。
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posted by 言人 at 18:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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