2011年03月27日

SS32

 その場所は、特別な場所だった。誰が言い始めたかは知らないけれど、その町に住んでいる人で、その場所を知らない人はいない──とは、言いたいけれど、もしかしたら、子どもは知らないかもしれない。あと、遠くの街から引っ越してきたような人も知らないかもしれない。それはつまりどういうことかって言うと、この町にひとつの高校に伝わる伝説みたいなもので、高校の裏山のてっぺんにある大きな岩のところには精霊? 妖精? が住んでいて、そこで告白をすると絶対にうまく行って、そして、二人は絶対に幸せになるっていう、いわゆる、学校の怪談というか、伝説というか、どこの学校にでもありそうな感じの、ありふれた伝説のある場所だった。──まぁ、裏山って言っても、山というよりは丘という方が正確なような、あんまり高いものじゃないけど。

「あー、今日もあそこで告白してる人いるよー」
 その学校の裏山を観察するとっておきのスポットが、うちの学校──この町でたったひとつの高校の屋上だったりするわけで。
「で、うまくいったっぽい?」
「うーん、あー、どうやっらおっけーみたいだよ?」
 屋上から、双眼鏡で愛を告白する風景を、意地悪くというか、趣味悪く眺めてるのが、俺と享奈の二人。
「ええと、今週に入って何組目?」
「──今日で三組目かな?」
 今日で三組というなら、今週だといったい何組になるんだろうか? 数学は苦手だし、よくわかんねーや。
「にしても、よく告白するカップルが鉢合わせしたりしないよなぁ。誰か、順番整理とかしてんのかな?」
「うん、あるみたいよ、それ」
「え、まじ?」
「まじまじ。なんでも、うちの生徒会の裏業務とからしいよー」
 へー、冗談半分だったのに、マジでそんなことやってる奴らがいるんだ。
「暇なんかなー」
「まぁ、こんなところで観察してるわたしらよりは忙しいんじゃないかな」
 うん、そりゃそうだ。

 屋上に吹く風が、享奈の髪をゆらす。空に溶けるような、淡い色。
「あれ、享奈、髪染めた?」
「うん。この前の日曜に」
 むー、この前の日曜ってことは、今週ももう木曜日だから、既にここで三日間も顔を合わせてたってことか……
「すまん。気がついてなかった」
「まぁ、わたしもそんな期待してないからねー。でも、普通、女の子が茶髪にしたりしてたら、すぐに気がつくもんだけどなぁ」
「そういうところに気がついてたら、今頃もっとモテてるって」
「あら、わかってるんじゃない。だったら、もっと努力しなきゃね」
「へっ。別にそんな努力したくねーし」
 と、強がってみるけど、
「そんな、『俺は硬派だぜ』的態度、今どき流行んないわよ?」
 享奈は冷たく一刀両断。
 俺は、ぐうの音もでない。
「──例えばね、誰かのことが気になって、その人のことばっかり考えるようになって、自分が硬派だとか、軟派だとか、そういうのがどうでも良くなって、あれ? 自分病気になった? って思っちゃったりするのが、『恋』ってことなんだと思うの」
「そりゃ、つまりは、今の俺には『恋』をするような資格はないっていうことか?」
「少なくても、わたしに対しては恋をしてない、ってことかしらね」
 そうなのか……むぅ。
「でもさ、恋とかって、よくわかんねーよな。
 だってさ、俺らがいっつも見てるあの裏山の上、あそこで告白してるような奴らってさ、きっと、別な場所で告白したって、きっとうまく行くんだぜ。別にあそこが『恋の特異点』って言うわけじゃなくてさ、『絶対にうまく行くような奴ら』があそこで告白するんだよ。だってさ、考えてみろよ。この町の若い奴──俺らみたいな高校生とか、中学生とか、一緒にあそこに行こうって言われたら、そりゃ、告白されるんだなってわかるじゃん。嫌だったら、そもそも一緒になんて行かないよ」
「それで、何を言いたいのかしら?」
 享奈が、俺の方を見る。
 双眼鏡越しじゃなく、彼女自身の瞳で。
 柔らかな茶色の髪が、太陽の光に溶けて、表情を柔らかく見せている。
「まぁ、ええとさ、享奈はさっき、俺に恋する資格ないって言ってたけど、恋ってさ、本当になんも見えなくなって、その人の髪型とか服装とか、もう、そんなんじゃなくて、その人がどんな表情だったか、とか、何を話したか、とか、それだけでいっぱいになったりもするんだぜ?」
 ええと、俺、何を言ってるんだろう?
「それで?」
「あー、だからさ。なんて言うかなぁ……」
 落ち着け、俺。
 ひと呼吸おく。
「あのさ、こっから見てるばっかじゃなくて、俺らもさ、あそこ、行かない?」
 俺は、真っ直ぐ裏山の上を指差す。
「──確かに、あんたの言う通りね。この状況は、既に告白されてるのも同じだわ……」
 彼女は、そう言って、はぁ、とため息ひとつ。
「や、やっぱりそうだよな……」
 ここまで言って、ただのピクニック! とかありえねーよな。
「それじゃあ、行きましょうか」
 とん、と彼女が歩き出す。
「え?」
「だって、行くんでしょ? そして、わたしに告白するんでしょ? ほら、早くしなさいよ!」
 彼女の後ろ姿に、彼女の言う通り、もっといろんな彼女のことに気がついたりしよう、そして、もっと、もっと享奈のことを好きになろう──今更なながら、そんなことを、胸の中で呟いてみた。

"Lover's attitude" is over.
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posted by 言人 at 23:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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