2006年05月25日

温度

 この街に帰ってきたことに、それほどの理由などなかった。ただ、出張で近くまで来たので、学生時代を過ごした街を見たくなっただけだ。
 駅前はすっかり変わっていて、一瞬違う街に来てしまったのかと思った。三十分ほど歩き、大学へと向かう。初夏を迎え、萌ゆる緑。確かに景色は変わってしまったが、街の空気は変わっていなかった。
 大学の近く、通い詰めた喫茶店にはいる。覚えているのよりも白髪の増えたマスターが、変わらぬジャズの音で迎えてくれた。
 そして、変わらぬコーヒーを飲みながら、一緒に通った彼女のことを思いだしていた。
 初めての、熱いキスと、
 最後の、冷めたキスを。
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posted by 言人 at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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