2010年03月23日

ss24

 高校生の頃、大人になればこんなふうに恋とかで悩むことなんてなくなるって思ってた。でも、あれから十年くらいたって、あの頃のわたしが考えていた大人の年齢になっても、まだ変わらずに恋で悩んでいた。
 というよりも、あの頃からずっと悩みっぱなしな気がしている。
 本当の恋って? 本当の愛って?
 そんな問いに答えるほどの経験はしてないかもしれないけど、わたしにとっては十分すぎるくらいの出来事はあったんじゃないかって思う。──ドラマみたいに恋をしたい、なんて考えたこともあったけど、そんなの、あたしには役者不足。もっと、平凡でもそこらへんにありふれているような恋愛でいい。どこにでも転がっていたとしても、それはわたしには特別になるはずなんだから。そう思えるくらいには「大人」になったつもりなんだけど。
「はぁ……」
 でも、休みの日の午後、カフェで一人でいると寂しさがこみ上げてくる。
 映画みたいな出会いを求めてるわけじゃないけど、なんか、寂しくない?
 気がついたら、手元のラテも冷めている。まるで、今のわたしの気持ちみたいに。
 読んでいた流行りの小説を閉じて、残っていたラテを飲み干す。さて、あとは部屋に帰って、掃除とか洗濯とかしようかな……
 そう考えると、また寂しくなってくる。
 だって、休みなのにデートの予定もなくて、考えることと言えば、家事のことだなんて。
 確かに、生活していくってこういうことなのかもしれないけど、何ていうか、これでいいのかな? という疑問はおさえられない。
 はぁ、せっかく外に出たし、天気も良いし、ちょっと遠回りして本屋さんにでも寄って行こうかしら。──ちょうど、今の本も読み終わりそうだし。

 川沿いの道は、もうそろそろ桜の季節。あと一週間もすれば、ピンクの花びらが水面に映ってとってもきれいになる。犬を散歩させてる人とすれ違ったりして、長閑だなぁ、なんて思いながら、間もなく訪れるだろう春の気配を思う。
 ──季節は春になるのに、わたしの春はいつ訪れるんだろうか?
 髪をくすぐる風にも春の匂い。
 暖かく、包み込むような太陽。
 こんな時、隣に誰かいてくれたら、って思ってしまう。
 ああ、もう! どうして今日はこんなことばっかり考えてしまうんだろう? 読んでる本が、恋愛ものだからかな?
 ついでだし、お気に入りの店でケーキでも買って帰ろうと決意する。
 としたところで、目的の書店に到着。
 雑誌コーナーを横目に見ながら文庫のコーナーに真っ直ぐと向かう。
「うーん、どうしようかな……」
 今の気分は恋愛ものじゃないな。もう、思いっきり重たいミステリとか読んじゃおう。と考えて、バリバリの本格ミステリを物色する。足は、いつの間にかハヤカワ文庫とか東京創元社文庫が並んでいるところに向いている。
「あ、この作家新しいの出てたんだ……」
 うーん、一度ハードカバーで読んだけど、また読んじゃえ。
 そう思って伸ばした指に、ぶつかる指があった。
「あ」
 声が重なる。
「す、すいません」
 声の主は、男の人だった。わたしよりもちょっとくらい年上だろうか? こざっぱりとした格好をしている。
「ええと、こちらこそ……」
 なんだろうか。こんなシーン、古い映画とか、子供っぽい少女マンガで読んだ覚えが……
「はい」
 と、その男の人が、わたしが──そして、その人が取ろうとしていた本を差し出す。
「え、あ、あの」
「この本、取ろうとしてたんですよね? 僕、ハードカバーで読んでるんで、譲りますよ」
 そう言って、ぎこちない笑みを浮かべてる。
 その表情にわたしは思わず吹き出してしまう。
「え、どうしたんですか?」
 彼は困惑した様子。
「だって、わたしもその本ハードカバーで読んでるんですもん」
「あぁ、そうなんですか」
 そして、彼も笑う。
 その顔が、なぜか気持ちいいと思ったから、
「あの、この作者、好きなんですか?」
 思い切って、そう言った。
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posted by 言人 at 00:01| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なんとなく偶然読んでみましたので、少し感想書きます。
常時考えることではないけど、仕事の合間やちょっと時間があるときについ思ってしまうような心情が良く書けてたと思います。
後半の物語の流れもいつも求めてるようなことではなく、あったらいいなという所が前半と関係性があって良い感じです。人と少し違うことを他の人も考えてるっていいですよね。
Posted by 黒い小人 at 2010年05月21日 04:11
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