2005年12月25日

幸せな灯りの下に

「すごいね……」
「うん……」
「冬祭りのときだって、こんなに人いないよね……」
「そりゃ旭川と東京じゃ全然違うべさ……」
 いくら人口約三十六万人を誇り、北海道第二の都市である旭川とはいえ、日本の首都東京にはかなわない。
「あー、こんなんならうちでゆっくりしてるんだったね」
 あくまでゆっくりしか進まない行列。
「……だれだよ、ミレナリオ行きたい、とか言ったの」
「……あー、ほんとしばれるねぇ。北海道とはまた違った寒さがあるよねぇ」
 北海道の旭川ーー近くの町では、日本最低気温を記録しているーーから上京して初めての冬。姉は三度目。北海道から来たんだから、寒いのには慣れてるんだろ? と言われることも多いけど、寒いものは寒い。
「……ったく、仕方がないなぁ」
 口ではそう言いながらも、実はまんざらでもない。
 だって、今までテレビとかでしか見たことのないようなクリスマス! その現場にこうやって来ているんだから、興奮しない方がおかしい。惜しむらくは、隣にいるのが可愛い彼女じゃなくて実の姉だということ。まぁ、美人な方だとは思うけど、姉が相手じゃ、デートじゃなくて家族サービスというのが妥当なところだろう。
「こんな美人のお姉さんと一緒にクリスマスできるんだから、幸せに思いなさいよ」
 ……自分で言うかよ。

 とまぁ、諸々の事情もあり、僕は東京でも有数のクリスマススポットのひとつ、丸の内は東京ミレナリオに、姉と来ている。
 きっかけは「ミレナリオ行きたい」という姉の一言。
「そういえばさ、クリスマスはひとりでゆっくりしてるとか言ってなかったっけ?」
「だって、昼にテレビでやっててきれいだったんだもん」
「やっぱり思いつきかよ。というより、去年とか来なかったの?」
 今年はクリスマス直前に彼氏と別れた姉だが、去年はまだラブラブモードだったはず。
「去年はね、横浜に行ったからね。こっちには来たことないのよ」
「へぇ……」
 自分で聞いたことで、姉の答えも予想通り。
 でも、どうしてか、どこか胸に小さなとげが刺さる。
「って、もう良いじゃないっ。今年は今年で楽しくしないと、ね」
 そう言って微笑む彼女を見て、そのとげが少し大きくなる。
 カップルだとか家族連れが並ぶ列が、少しずつ進んでいく。
 今年の冬はとても寒い。数年ぶりの寒さらしい。でも、列は寒くはない。
 だって、こんなにもいっぱいの人が、いっぱいの幸せを持っているから。
 けれど、僕の胸には小さな痛みが残ったまま。
 原因不明の痛み。

 信号がかわり、列が一気に進む。人の波に押されて、姉と離れてしまいそうになる。
「わ、わわわっ」
 離ればなれにならないように歩く。
「ふぅ、何とか大丈夫だったね」
 無事、道路を渡り追えた。
「ああ、やっぱりすごい人だなぁ」
「ねぇ、迷子になっちゃ大変だよね」
「迷子って年でもないだろ」
「でも、一回離れちゃったら、合流できないよね……」
 携帯電話で、簡単に連絡はつくし、互いがどこにいるかも確認できるだろう。でも、そこへたどり着くのは難しいだろう。
「そうだよなぁ。これだけ人がいたら身動きできないもんなぁ」
 列は遅々として進まず、なかなか会場に着かない。地図で見ればすぐのところなのに。
「ね、離ればなれにならないようにしなきゃね」
「そうだな。面倒なことになっても困るしな。……手でも繋ぐ?」
 前に買い物行ったときにも手は繋いでいるんだけど、改めて口に出してみるとなんだか恥ずかしい。
「へへへ、それよりもね……」
 何かを思いついたような顔。
「な、なんだよ」
 ちょっと身を引いてしまう。
「こうすれば、絶対に離ればなれにならないよ」
 姉はそう言って、ぎゅっと僕の腕を引き寄せた。
 僕の右腕に、姉の左腕が絡む。いわゆる、腕を組んでいるという状態。
「ちょ、ちょっと……」
 手を繋いでいるよりも、ずっと近くに姉がいる。
「ね、大丈夫でしょ」
 僕の顔を見ようとすると、姉は自然に上目遣いになる。
「う、うん」
 いつもよりも大きく、彼女の顔が写る。
 きれいな目、柔らかそうな唇。化粧品の、女性らしい香りが鼻をくすぐる。
 香りは胸のとげにからみついて、柔らかく溶かしていく。
「ねぇ、見えてきたよ」
 光のゲートが近づいてくる。
 きらきらと、きらきらと。
 きれいなきれいな、幸せそうな灯り。
 灯りの下には、笑顔が広がっている。
 今が、こうして幸せなら。
 誰かを、大切だと思えるなら。

「メリークリスマス、だな」
 組んでいる腕を、ちょっとだけ強く引き寄せて。
「うん、メリークリスマス」
 そこに、大切な笑顔があることの幸せを。

"Xmass with Sister" is over.
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posted by 言人 at 15:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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